車人形公演
宍戸忠夫
昨年、平成19年7月8日(土)、わの会主催、開成町及び開成町教育委員会共催で開催された「車人形公演」は予想以上の302名が参加する盛況な公演となった。鑑賞された多くの方々かはたくさんの感動の感想を頂戴した。
会として大きなイベントに取り組み成功できた背景には、わの会メンバーひとりひとりのご協力があったことは勿論であるが、更に地域の文化活動の推進に大きな理解と多大な協力を惜しまぬ開成町長のバックアップがあってのことだった。
鑑賞された方々からの反響は大きく、聴衆に大きな感動を与え、日本の伝統芸術の紹介に貢献したこともわの会にとって嬉しい成果だった。
開成町長の持論である、「文化は町、地域の柱、それを育成、はぐくむのは地域住民、それを積極的に応援するのが行政」、今回の公演は正にそれを理想的な形で実践できたのではないかと思っている。
さて、今回の「車人形公演」開催のきっかけについて述べてみたい。
今回の語りを担当された中澤俊子さんと初めてお会いしたのは2000年の正月、次男がボリヴィアでお世話になっていたペンションを訪ねた時だった。
彼女は既にボリヴィアのコチャバンバの地で20年近く暮らしていて、民族楽器、民族衣装などを扱う、さる日本のお店の現地支店のお仕事をしておられた。
そしてその傍ら日本からの観光客(殆どが音楽に関心を持った旅行者)に安く宿を提供してくださっている、ペンションの経営者でもあった。
次男はフォルクローレの勉強のためボリヴィアに渡り、この中澤さんのペンションにお世話になったのが、そもそもの出会いだった。
中澤さんがボリヴィアに来られたきっかけは、現在息子が入っているボリヴィアのフォルクローレグループ「ロス・カルカス」の音楽だったそうだ。
日本での生活を捨て、遠い地球の裏側の南米ボリヴィア行きまで決意させたフォルクローレの力を思うと凄いものがある。と同時に日本の生活を捨てまで単身ボリヴィアに渡った彼女の決断には驚かされる。
フォルクローレに対する造詣が大変深いのは当然として、時折パーティーで披露された彼女の朗々とした歌声はとても素人とは思えない張りのある素晴らしい歌声だった。中澤さんのボリヴィアでの生活をお聞きすると、ここでは割愛するが決して薔薇色の道ではなかった。
現地で安定な生活を送るために自活の道を探していく過程で、当然、語学の問題や人種差別など、私には想像を絶する体験談を沢山うかがった。
やはりボリヴィアで知り合った、女性カメラマン雨宮真理さんから一枚のDVDが送られてきたのは一昨年のことだった。
彼女は当時、冒険家のご主人と一緒に世界中を旅していて、たまたまボリヴィアのコチャバンバの長期滞在中に知り合いになった方で、現在は日本でお仕事をしている。そして彼女もまたボリヴィアに来てカルカスの虜になった方だった。
そのDVDには、三味線と一緒に車人形の語りをされている中澤さんがいた。いつも雄弁に南米音楽を語る中澤さんのイメージからはとても想像できない日本的な中澤さんの映像に私は大変驚いた。それまで、私は彼女が日本文化に造詣のある方とはちっとも知らずにいた。
後で判ったことであるが、中澤さんはボリヴィアに渡る前は、邦楽界では有名な、東京芸大で民族音楽も教えておられた平井澄子先生に日本伝統の民族音楽を学んでおられ、そこで語りの勉強をされていた。私はこのことを知って彼女が南米フォルクローレに惹かれた根っ子が見えた気がした。
彼女は次男のフォルクローレの演奏についてもプロ奏者になるための有意義な助言を沢山してくれた。現地の人々の生活、習慣、国民性を理解し、その上でフォルクローレ音楽を作り上げないと所詮日本人の物真似事で終わってしまう危険性があること、また難解なフォルクローレのリズムをマスターするには、地方のお祭りに参加して踊りの輪に入り体感することが重要なことなど、生活と一体になった民族音楽の基本を熱く説いた。
現地でいろんな経験をされてきた彼女ならではの貴重なご指導である。これらの背景には日本で昔学んだ日本の伝統芸術の下地があったということを改めて実感した。そのDVDの中で中澤さんは、還暦という人生の節目に日本に戻り、日本の伝統芸術の素晴らしさを改めて自分で再確認しているかのように見えた。
私は今まで人形浄瑠璃というものを正確には知らなかったし、見たこともなかった。なかなか機会がなかったということもあるが、理由の一つに内容がなかなか判りにくいということもあった。しかし、DVDを見る限り、というか、中澤さんの語りを見ていると、内容が非常に判り易く、人形との絡みも極めて自然で、始めてみる私にもとても理解しやすかった。見ていくにつれ私はすっかり「さんしょう太夫」の世界に入り込んでしまっていた。
そもそも車人形とは江戸時代に起こり、数人で操る従来の人形とは異なり、珍しいロクロ車に腰をかけ一人で操るもので、足の動作は人間の足と直接連動する関係で、躍動感のある演技が可能となる。まるで命が吹き込まれたような活き活きとした臨場感が味わえる。
しかし残念ながら現在ではこの伝統芸術を受け継ぐのは全国で三座となり、大変貴重な伝統芸術となってしまっている。今回の演題に関しては親子のあり方や人間としてのあり方を考え直す意義もこめ、有名な「さんしょう太夫」の一幕をお願いすることにした。
しかも理解を深めていただく意味で、説教浄瑠璃正本を元に平井澄子氏により平易に作られた「新曲 さんしょう太夫」の上演が適切と考え、今回もこのDVDと同じ「新曲 さんしょう太夫」とさせていただいた。
メインの車人形の表現力が素晴らしかったのは言うまでもないのだが、私にはその人形の演技力を引き出している中澤俊子さんの語りに大変惹きつけられた。この感動が生の公演では数十倍も期待できるはずで早く皆さんに見ていただきたいという思いがつのった。
さて開催までの経緯は、先ず4月7日の春の総会で「わの会」平成19年度行事として正式に承認いただくことから始まった。7月8日の実施に至るまで経緯は「わの会」の報告書等と重なるので詳細は省略するが、開成町教育委員会の共催を得て、開成町福祉会館、及びその付帯設備使用についても開成町から有り難い支援をいただいた。
公演に対する町の援助は文化事業に関する開成町の積極的姿勢の表れで、私には新しく発展していく町の空気を強く感じられた。準備から開催までは3ヶ月と短い期間ではあったが、PRからチケット販売に至る諸々の準備を会のメンバーの積極的なご協力でなんとか準備が間に合い、開催日を迎えることができた。
さて、公演当日は準備に追われ私も含め、わの会のメンバーの方々は、朝から忙しく動き回っていたので肝心の生の公演を落ち着いて鑑賞はできなかったが、それでも車人形の素晴らしい日本の総合芸術の醍醐味は存分に堪能できた。
最後に公演の後にメールなどで届いた来場者の生の感想を紹介したい。
とても楽しいイベントだったと思っています。日本の文化財と言える芸術に直接触れられて感激しました。
- ・・・さんが 開口一番「昨日は素晴らしいものを見せてもらった、久しぶりに大感動した」といってくれました。家内の妹は恥ずかしながら涙ぼろぼろだったそうです。
- わの会メンバーの皆様、7月8日の車人形の公演は、皆様のご協力で予想以上の成果を上げ、聴衆の皆さんにも大きな感動を与え、露木町長のおほめの言葉も頂き素晴らしい公演でした。
- 百聞は一見にしかずと言いますが、あのような車に乗って人形を遣うとは面白いですね。 文楽と比べて現代語の語りが理解できるというのもありがたいことですが、何よりも語りが素晴しかったです。
- 語りと人形の動きがピッタリ一致してリアルな動きに感動した。
- 人形の動きがまるで生きているかのように見え、素晴らしい日本の伝統芸術と思いました。
- 語りの真に迫った迫力に圧倒され、思わず涙してしまいました。
- さんしょう太夫に感激したので、他の演題の車人形公演も見てみたい。
- 一部の笛、琴、三味線の透き通るような音色も素晴らしかった。特に語りの方と琴と三味線の二役の演奏者がよかった。
- 一部の自然をテーマにした民話は特に共感を呼ぶものでした。
上記は感動的な公演を伝える感想であるが、一方、以下のような複数の演目のバランス、付属設備、PAの不備にまつわる反省点も明らかになった。以下はいただいた反省点である。
- 後部座席からの車人形の公演は遠すぎて表情が見難く残念だった。
- 後ろから見るとおかあさんの人形の顔が白すぎ平面的に見えた。また異常に小さ過ぎると感じた。
- 一部の琴の音が大き過ぎ、歌が聞き取れずストーリーの理解に疲れた。
- 一部の楽器の演奏は時間的には丁度良く新鮮だったが、スライド民話が長過ぎた。
- スライドの絵がちょっとイメージと合わない感じ。スライドは暗いし、もっと見易すく最新のパワーポイントなどを使用して効果を上げる手段を考えるべき。
- 足柄の民話を取り上げて欲しかった。
上記のいくつかの反省点は今後の企画に大変参考になる意見で次回からの改善目標にしていきたいと思っている。
さて、いくつかの反省点はあるものの、今回の公演に関しては来場くださった多くの方々に車人形という日本の伝統芸術を直接鑑賞していただくことで、素晴らしい感動を伝えることができ、そして多くの方が感動に涙したのではないかと思っている。



