河原に溜まっている排気ガス
早朝の酒匂川の河口付近を、私はウオーキングで1時時間ちょっと歩くことがある。気が付いたらお腹が出っ張ってきた。
スーツなどでめかし込もうとするとき、背広やズボンの釦がはまりにくくなっている。その現実に「ありゃ、大変!」とばかり自衛策に歩き出したのが始まりである。
酒匂川は川幅がおよそ200メートルもある大きな河川だ。河口付近の左岸の河原には周回1.6キロのサイクリング場が作られている。そこを使って歩けば激しく行き交うクルマは避けられる。絶好のウオーキング・ルートである。
日の出前のまだ暗いうちに家を出て、我が設定のウオーキング・ロードを進む。途中の通過ポイントである小田原大橋を東に向って渡り始めると、左手に箱根外輪山が拡がる。
その山並みの向こうに白く雪を抱く富士山が見える。右手の相模湾からは日の出が始まる。日の出の茜色の陽光は、短い時間だが白い富士山を紅色に染め始める。紅富士である。
その上空に、朝の淡い満月が残っていようものなら幻想的な光景が現出する。
早朝のウオーカーにだけにしか見られない特選の映像である。
橋を渡り切って河原に下りサイクリング場のコースへ。歩くスピードを上げて河口に向かう。右手からは酒匂川のせせらぎが聞こえてきて気持ちがいい。
厳寒の冬季には余り気にならないのだが、気温が上がる季節だと、その清々しい河原に、もやもやとする空気が漂っていることに気付く。小鼻をピクつかせる。その臭いはまさしくクルマの排気ガスのものだとわかる。
河口に近い河原にCO2が広がり漂っているようだ。流れの川面の方は分からないが、漂う排気ガスは小高い両岸に阻まれ、自然が作る巨大な弁当箱の底ともいえる河原に溜まって動かないふうにみえる。
サイクリング場の周回コースを更に河口に向かって進む。やがて国道1号線に架かる酒匂橋の下をくぐる。橋梁からは路面排水の管が河原に向って吊り下がっている。
サイクリング・コースはコンクリートで舗装されている。その排水管の真下に当たる部分が黒く染みて汚れている。
国道の道路面にこびりついた汚れや排気ガスの残滓の炭素の一部が、雨が降ると通過するクルマのタイヤの圧力で剥がされ、雨水とともに排水菅から河原に流れ落ちる。
黒い痕跡が広がっている場所は3か所。どれも排水菅の真下だからそう考えても間違いではなさそうだ。
ウオーキングの歩速を緩めながら考えた。
自然環境が壊れている証拠の“現場”は、普段ならありえない河原に漂うもやもやの自動車排気ガスであり、国道橋の真下の黒い汚れの跡がそれなのだろう。
排気ガスによる大気汚染の現実は、ドキュメント本や画像で見る遠い世界だけではなく、すぐ目の前にあった。
私たちが大気汚染の現実を体験、経験する場所は、日頃の生活環境の周辺に存在しているのだ。



